マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男 マイケル・ルイス(著)

ブラッド・ピットの映画を観てから原作を読んだ。どっちが先の方がいいかは分からないが、両方見る方がいいと思う。順番は個人的には、映画→原作の方がいいと思う。

映画はビリー・ビーンを中心だが、原作はどちらかというとセイバーメトリクスを中心に置いている。分析手法として、どのように肉付けされて形になってきたか。そしてそれをいくつかの章ごとに特定のプレイヤの成功を通して成功事例としてまとめている。映画に比べたら、はまる人とはまらない人が別れるかもしれない。いずれにしてもこれは野球本ではない。かといって思っていたほどマネジメントに近い本でもないと思う。読みようによっては中途半端に映るところもあるかもしれない。

ただ「正しいことを正しいと評価されない大勢との戦い」は知って欲しかったのかもしれない。とはいえ、ビリー・ビーンが、もしくは率いるオークランド・アスレチックスがその戦いに勝とうとしたわけではない。そういう戦いというか古い体質という背景の中で起こした改革。その改革もやるしかなくてやったというところは間違えないようにしたい。マネジメント本として読んでいる人はよくこの部分、この「やった」という判断力と推進力を評価しているのかな、と思うが、うーん、と思う点でもある。

ところで大勢との戦いに勝とうとしないのは、差別化戦略をキープできるからだったのは間違いない。他者がやらないから効率的(コストをかけずに)に効果を発揮できる(勝ち星を増やせる)。原作が執筆されたのは10年ほど前。アスレチックスがその戦略を有効に発揮できたのはまさにその時期。果たして現在のMLBを考えてみると、これはもう厳しい。既にセイバーメトリクスは各球団に普及している。普及した上で、本当に強くなるチームはどういうチームかというと、やはり資金力があるチームである。同じ戦略を資金をかけてやれるなら当然精度もあがるし、結果として獲得するプレイヤの質もあがる。つまり資金力のないアスレチックスが分析手法を駆使してきたこの戦略=先行者利益はもう存在しない。原作出版当時ではなく、この10年間で大勢がその戦略を取り入れたという事実を知っている中で本書を手に取ったため「存在しなくなっていくんだよなー、これから先は・・・」そう思いながら読んでしまったのが、僕が物足りなさを感じてしまった原因だと思う。

物足りなさ。個人的に思うのは、アスレチックスの強さは、セイバーメトリクスが主ではないと思っている。この点については、映画の方がいいポイントをついていたと思っている。つまりビリー・ビーンなのである。彼個人の際立った能力が必ず存在する。事実、2012年のア・リーグ西地区でシーズン序盤独走していたテキサス・レンジャーズを最後の最後にアスレチックスがスイープでかわし地区優勝を達したのは、スポーツ好きには記憶に新しいと思う。10年経った今、選手も変わったけれどやはり強いのである。(毎度のことながら、ポストシーズンの短期決戦では敗退するんだけど・・・)

今年ワールドシリーズを制したサンフランシスコ・ジャイアンツの主力投手の一人、バリー・ジト(元アスレチックスのエース)は、「資金がいくら乏しかろうと、どんな選手がプレーしようと、なんの関係もない。ビリー・ビーンがチームを統括しているかぎり、アスレチックスにはワールドシリーズ優勝の可能性がある」と語っている。書籍もこの点をもっとフィーチャーしても良かったんじゃないかな、と。

いずれにしても、見るべき視点、読むべき視点がいくつもあると思う。そして万人向けではないと思う。ただ、なんらかの理由により一度でも目に留まったなら読んだらいいと思う。なんだかんだ言っても自分は面白かったので。あと、Kindle版がとても安いので。


そう、Kindleがやっと日本上陸。なので、これについても少し。どれにしますか?っていうと、迷わずPaperwhiteがいいと思った。多機能が悪いとは言わないけれど、iPadとかと比べたら駄目。ポジションが違う。これはブックリーダというハードウェアでしかない、と割り切って考えるべきだと思う。そう考えると、Paperwhiteが最も満足度が高いと思う。そもそもの話、電子書籍の分野はハードは重要ではない。ソフト(書籍)が全てだと思う。そういう点で、KindleというよりKindle Storeの国内開始が価値が高い。逆にハードウェアはなんでもいい。僕自身は、iPadのKindleアプリを使っている。正直なところほとんど不満がない。十分である。今回の「マネー・ボール」もそのアプリを使ってiPadで読んだ。

ハードウェア重視の視点ではブックリーダはたくさんの書籍を持ち歩ける、という話を目にすることがある。それ、本当に重要だろうか?そんなに同時に数冊も持参が必要になるかな。もちろんオライリー本を数冊持ち歩くとか、研究書籍やテキストとかを考えると重要だけど、あまり一般的ではない。一般的に最も重要なのは、書籍の価格と種類の多さ、つまりソフト。ちなみに価格に関して「マネー・ボール」の場合、文庫が¥798、Kindle版が¥250である。どの書籍でも安いわけではないが、低価格で書籍が購入できるに越したことはない。僕は電子書籍はもっと普及して欲しいと期待しているので、この流れが加速してくれると嬉しい。

そう、Kindleだけど、もし、僕が今後Paperwhiteを買うとしたら、きっとバッテリーと重量とE ink、この3つを重視した場合だと思う。ただ、まだまだ先の話になると思う。今は、iPadで十分なので。

(書籍年間目標に対して… 14/24)


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